果たされなかった約束を叶えるため、再びこの生を受けた。
君にこの命を捧げるため、再びこの力を授かった。
君と巡り会えたこと。
君を守れること。
君のそばに在ること。
君の全てに、感謝します――――。
平日の放課後、時刻にすれば五時を回ったばかりだというのに、公園には誰もいなかった。普段は子供達の歓声や、それを見守る親たちの熱心な情報交換で賑わう場を、今日は寂しく風が通りすぎるだけの静寂が辺り一面を支配していた。
心のどこかでそれを望んでいたはずなのに。その証拠に吐いた、安堵のため息。
―――――それなのにこの胸に覚える、一抹の寂しさは何なのだろう。
うさぎは鞄を柵の近くに置いて、乗り手を失った空っぽのブランコに腰掛けてみた。
キィ、ともの悲しい音が響き渡る。
静かだ。
遠くでさえずる鳥の鳴き声と、時折走る、車のエンジン音が聞こえるのみ。
暫く地面に足をつけたまま、体を揺らしてみる。ゆらゆら、と体をゆっくりと前後に動かしながら、空気が動くのを全身で感じ取る。もう少しだけ揺れを大きくしようと思って―――やめた。
空気の流れを感じるのは心地よいが、如何せん冷たすぎて、肌にぴりっと電流が流れたかのようで。
今日は何時になく冷え込む、と思う。そういえば慌てて朝食を流し込んでいたとき、付けっぱなしだったテレビでそんなことを言っていたかな、と今頃思い出してそっと一人笑みを刻んだ。
ふと飛行機音が聞こえてブランコを止め、空を仰ぐ。飛行機雲が一筋、くっきりとコントラストを描いていた。
空が高い。冬の晴れた日はきらきらと空気自体が光るような、そんな青く澄んだ空が多い。
―――――月から見るとまるで青い硝子のように見えたっけ。
うさぎは上を見上げながらそんなことを思った。それは遠い、遠い月の記憶。
遙かなる心の水底に、普段は眠っている記憶が、たまに思い出したように浮かび上がってくる。まるで天然石の欠片に含まれた太古の大気が、気泡となって浮上してくるように、それは小さく頼りないものであったけれど。
…けれどそれは紛れもない月の記憶。
ふと冬の冷たい空気に鼻の付け根に痛みを感じてミトンをはめた手で押さえたとたん、涙が目元に滲んだ。
はふ、と小さく口で息をする。
「月のドームではこんな事も感じなかったよね」
月での空気(勿論それは人工のものであったが)を思い出そうとして、目を閉じてみようとして―――急にエンジンのブレーキ音が聞こえたかと思うと、誰かが公園へ足を踏み入れてくる気配がした。
動くのも億劫であったので、そのまま片方の手で鼻を押さえつつやり過ごそうとしたが、地面の砂を踏みしめる音は段々近づいてくる。
不思議に思って顔を向けようとしたとたん、聞き馴染んだ声がかけられた。
「や、子猫ちゃん。上ばかり見て何をしているのかな」
耳に心地よい、少しからかいを含んだこの声。目を向けずとも分かる、月での記憶を共有する大切な仲間がきっとそこにいる。
「はるかさん!」
や、と片手をあげてヘルメットを外す。先ほどのエンジン音ははるかのバイクだったらしい。軽く頭を左右に振ると、濃い金とも亜麻色とも付かぬ、少し癖のある髪が冬の空気に踊った。
そんなところも見惚れてしまうほど格好良い。うさぎは嬉しくなってぴょこんとブランコから飛び降りると、鞄もそのままにはるかに駆け寄った。
「はるかさんこそこんなところで何してるんですか?」
息を弾ませながら訪ねるうさぎに先ほどまでの気鬱な表情は既になく、いつもの眩しいほどの笑みを浮かべていることにはるかは少し安堵の念を覚えた。
「いや、こんなに良い天気だからね。少し遠くまで走らせようと思って近道をしたら可愛い子猫ちゃんが見えてさ。少し気になって寄ったんだ。悪い奴にさらわれたら危ないだろう?」
悪戯っぽく片目をつぶってうさぎの頭にぽん、と手を置く。彼女の柔らかな細い金色の髪はまるで羽毛のようだ、と思う。
「やだはるかさん、あたしそんな子供じゃありませんようー」
そう両手を握りしめて全身で抗議するうさぎは端から見ても十分子供っぽいと思うのだが、時折このお姫様は年齢にそぐわないほど大人びた一面を持つことをはるかは知っていた。
―――――例えば先ほどのように。
「現に今ひっかかってるじゃないか」
くるくるとよく表情を変える、大きな瞳をのぞき込む。
「はるかさんは悪い人じゃないじゃないですか」
予想通りの答えにはるかは思わず笑みを零した。
本当に彼女は透明だと思う。例えるならばそう、限りなく純度の高い硝子。綺麗で透き通っていて、儚い。
傷ついている人は皆、包み込むような優しさで救ってしまう彼女は、自分のこととなると抱え込んでしまう傾向がある。どこまでも無限の強さを秘める彼女だが、同時に脆い部分も併せ持つ。
そんなアンバランスを内包する彼女を守るためならどんな犠牲も厭わないほどだというのに。何故頼って貰えないのか、それが時折酷く悔しく思う。
少し虐めてみたくなって、す、と身を寄せてかがめると耳元で囁いてみる。ついでに肩に手を回してみた。
「どうかな、試してみる?」
「えっ えっ」
みるみるうちに真っ赤になっていくうさぎの、おたおたする様子についにこらえきれなくなってはるかは盛大に吹き出した。
「ごめんごめん あんまり子猫ちゃんが可愛くてついからかいすぎた」
暫し硬直していたうさぎだが、次の瞬間盛大に爆発した。
「ひっどーい!はるかさん人をからかうなんて趣味悪いですよ!」
本当に彼女は面白い。ここまで愛すべき存在は希有である。感情豊かな彼女といると、飽きることは一秒たりとも無い。
彼女は信じるだろうか。自分がこんなに笑い上戸になってしまうなんて普段では考え得ないことを。大切なパートナーであるみちると居るときに流れる、穏やかで温かい空気とも違う、自分のペースを常に崩される新鮮な感覚。
「本気にしたのかい?」
「もーはるかさんなんてはるかさんなんて・・っ」
憤りながらもその続きの一言が言えないのが彼女らしい、と思う。
「悪い、お詫びにケーキでもパフェでも何でも好きなものをご馳走するからさ」
流石にからかいすぎたかな、とうさぎの様子をうかがうと、現金なことにそれで全てが吹き飛んでしまったらしい。
「はるかさんありがとうっ」
そう言って腕に抱きついてきたうさぎの温もりに何度目かの笑みを浮かべた。
本当は偶然通りかかったのではない。見たい番組があるから、と一人で下校したうさぎが気になって、そっと後を付けてきたのだ。
―――分かってはいる。彼女は仲間を信用していないのではなく。恐らく彼女自身も気づいていないのだ。その不安が何であるのか。ただ漠然と不安に感じるがその根拠はなく。
だいたいの検討はつく。心配をかけまいと口にはしないが、地球のプリンス―――地場衛からの連絡が来ないのだろう。
物陰で彼から貰ったという指輪――最もうさぎから直接聞いたわけではないが、彼女を見ていればすぐにわかる――を取り出してはぼんやりと眺めているのを一度だけ目にしたこともある。
彼のことだ、何か特別な理由があるのだろうが、それでもうさぎをこんなに不安にさせるとは腹立たしく思う。
はるかにとっての一番は勿論プリンセス、その人である。何をおいても守ると誓った王女。
あの約束は未だ胸に強く焼き付いている。何度生まれ変わろうとも強い標(しるべ)となり、力となるのだ。
それは遠い、あの日の記憶―――――。
***
それは遥か遠い月の記憶。
まだ月の王国が白く、無数の光が混じり合って透き通るように輝いていた頃。
空には優しい風が吹いていた。地には花が咲き乱れていた。
―――――それは月の王国が誇る、高度な科学技術の結晶であったけれど。
それでも王女は幸せだった。ドームの中での造られた生命であれど、外に出たことのない彼女にとって、それは紛れもなく本物であったし、それが全てでもあった。
月の住人は長寿であったから、既に長い年月を重ねてきた王女であったが、姿形はまだ幼さの残る、悲しいことを何も知らない、幸せに輝くあどけない白銀の少女だった。
もしも地球の人間が彼女の年齢を表すとすれば13、14といったところであろう。
そんな王女は現在、大変困っていた。
いつものようにこっそりパレスを抜け出してきたはいいものの、どうしたことか迷ってしまったのである。
月の宮殿は広い。手強い四守護神の目を潜って何度か作法や講義からエスケープしていることも手伝って(決してほめられた事ではないが)王女らしからず内部の構造には通じていると自負していたのだが、何故か今日に限って迷子になってしまったのである。
厳重な守りに囲まれた宮殿であるから、そうそうは危険な目に遭うとは思えないし、もうそろそろ四守護神が抜け出したことを看破するころだろう。それでもこのまま誰にも遭遇できなければお腹もすくし、何よりも段々心細さを感じてくる。
幾重にも重なる、紫色の花のカーテンを押し開いたところで、静かに水が沸き出でる小さな水場に出た。
おそらくドームの中の小さな動物たちが水を求めて集う場所だろう。
「とにかく、ここで少し休もうかな」
少しづつ押し寄せてくる不安を打ち消すために、口に出して自分に言い聞かせてみる。
そっと腰を下ろして、優しく降り注ぐ暖かな日差し―――それすらも管理されているのだが―――を受け止めているうちに、少し気分が落ち着いてくる。目を閉じると優しく体を撫でる風が全身で感じられて心地よい。遠くで小鳥の囀りも聞こえる。
ドームでもこんなに素敵なのだもの、本物はどんなに素晴らしいのかしら、と思いを巡らせながら、次第に王女は眠りに誘われていった。
***
少し時は遡る。丁度王女が抜け出そうと画策していたころ、王宮を秘密裏に訪れる者があった。
宮殿を守衛兵は勿論、四守護ですら存在を知らされていないその来訪者は、クイーン自らが呼び寄せた、天王星、海王星を護る者たちであった。
「ウラヌス、ネプチューン、あなた方に此度来て貰ったのは、天王星…いえ、太陽系きっての剣の使い手であるウラヌスと、美しく奏でられる音色のように、広い宇宙に琴線を広げることができる繊細な感覚を持つネプチューンに、特別な役目を引き受けて頂きたく思ったからなのです」
「は、特別な役目…ですか」
「私たちに…?」
膝をつく二人ににやんわりと顔を上げるよう求めながら、月の女王は話を切り出した。
ここ最近、よからぬ波動を放つものの存在を時折感じること、それが年々と大きくなっていること。遠き星々のいくつかが観測不能になったこと。
「――――これは憶測なのですが、何らかの悪しきエネルギーが近い将来、この月の王国や地球を狙いに定めてくるでしょう。そのために、外部からの敵を監視し、必要で在れば消去してください」
これを、あなた方に。
一旦言葉を切って、クイーンは一振りの美しい宝剣と、美しい手鏡を取り出した。
それは普段使うような長剣ではなく、一見ともすれば飾りにしか見えぬ短剣、そして繊細なレリーフの彫られた美しい鏡。
しかしその外見ではなく、滲み出る清冽な気の美しさと、深い波動にウラヌスとネプチューンは息を飲んだ。
「これは―――」
「スペース・ソード、そしてディープ・アクア・ミラー。貴方がたならば使い方が分かるはず。貴方がたの力となると共に…」
一度クイーン・セレニティはそこで言葉を切り、ほんの一時の逡巡の後、きっぱりと二人に告げた。
「いつか来たるべき時が来たとき、その役割を果たして下さい。これはその時まで、二人の中に―――。」
疑問も放つ暇も無かった。来たるべき時とはどんな時なのか、役割とは何なのか、そして先ほどの躊躇いは一体何の為に――― 一瞬にして溢れ出た筈の疑問が全てより強いものに打ち消されてゆく。
クイーンの言葉と共に、それは強い光となってウラヌスとネプチューン、それぞれの体の中に吸い込まれていった。
その瞬間、全てを理解した。満ちる。知識が、力が、体の中に強く満ち溢れてくるのをウラヌスとネプチューンは感覚の全てで受け止めた。
***
「あなた方の立場は誰にも知られてはなりません。この王宮には四守護がいますが、彼女たちにも伏せてあります。なるべく目立たぬよう、別々に帰途についてください。」
クイーンの言葉に、ウラヌスはネプチューンと一時袂を分かち、先に王宮を出ることにした。
彼女とは、この王宮を出たら落ち合う手はずになっている。この責任ある仕事への着任まであと3日。それまで惑星(くに)の者にすら知られぬように準備を整えねばならない。
孤独な仕事ではあるが、彼女と共に着けて良かった、と心から思う。
何よりも信頼している彼女は心強い同僚であり、掛け替えのない友人である。
ウラヌスはこれから早急に片づけるべき事柄を頭の中で思い描きながら、愛馬の元へ向かった。
普段なら目映いばかりの精華を放つ月の科学力を使えば、星へ瞬間的に移動することなど造作も無いことであったが、ウラヌスはもう随分長い時を共にしている翼のある愛馬――つまり天馬で、地を、宙を翔ることを好んだ。
無論、本当に宇宙を翔ることは無かったが、これもまた月の高度な科学力の産物である、星と星を結ぶ回路と言うべきものを疾駆させることを好んだのである。
付け加えていうならば、もう一つウラヌスには天馬を好む理由があった。遙か昔に海王星、つまりネプチューンの故郷から贈られたものであるからだ。贈られた当初は翼もなく大地を駆けるのみであったらしいが、今では交配も進み、天をも翔る美しい生き物である。
元々幻想種として認知されていた一角獣とよく似た天馬。角こそ無かったが、鍛えられた筋肉と風を繰る翼。これを美しいと言わずしてなんと言おうか。
地球では神話として海神ポセイドンからの贈り物と伝わっているらしいが、あながち間違いではない、と思う。―――いや、もしかしたら地球が興った当初、派遣された月の住人から何らかの形で伝わったのかもしれない。
「まあそれも今の僕には関係のない話さ」
そうひとりごちて、ウラヌスはふと気づく。考え事をしているうちに天馬を隠しておいた場所に着いたようだ。
繰り返すようだが、今回の登城は極秘である。ウラヌスとしても愛馬を見つかりにくいからといって、ただその辺に放置しておくのは本意ではなかった。ゆえに野生の(とはいえ月の生き物は皆管理されているのだが)動物も多いこの森の水場の近くに場を定めたのである。
―――――いた。あのかすかに金色に輝くような、琥珀色の毛は他に一頭たりともないウラヌスの馬である。
その珍らかな毛を持つ天馬は、水辺のほとりにある木の傍に佇んでいた。時折思い出したように尻尾を振っている。
「やあ、待たせたな。帰る…ぞ?」
声をかけようとして、ふと眩しい光が目を射た。
白?いや、銀・・?
次の瞬間、ウラヌスは信じられないものを目にして――――情けない話だが、その、転けた。
彼にしては珍しい失態に天馬が驚いたように小さく嘶く。
「しーっ どうどう、落ち着けってば。僕なら大丈夫だから」
小声で宥めると、もう一度その「信じられないもの」を確かめるべく、視線を向ける。
天馬と細木の間に、一人の美しい少女が穏やかな寝息を立てて眠っていた。
「なんでこんな所に…」
面識はなかったが、この外見を見れば疑う余地もない。高い位置で二つに結わえられた銀の長い髪、桜色の唇、――――額の三日月。
なるほど、今は幼さの残るその顔(かんばせ)にもクイーン・セレニティの美貌の面影を見つけることができる。
瞳は…何色だろう?髪と同じ銀かはたまた碧玉か紅玉か。
かすかに上下する細い肩は華奢で、天馬が一歩踏み違えれば簡単にその命は儚く散ってしまうであろう。
ブルルル…
ウラヌスの思考を読んだかの如く、天馬が器用にもウラヌスの髪を数本引き、抗議する。
「いてて、わかってるよ、お前はそんなことしないよ」
そ れを聞いて満足したかのように再び少女に顔を向ける天馬の背を軽く撫で、少女の傍にかがみ込んだ。
「あ、お前影を作ってあげてたのか」
そんなに照りつけるほどの日差しではなかったため気づくのが遅れたが、少女の傍らにかがみ込むと丁度太陽の光が天馬によって遮られている。
ここに落ち着いた時は木陰ができていたであろう場所も、太陽の傾きによって木陰が移動したのだろう。今の少女が居る位置は、天馬が居なかったら光が直射する場所であった。
勿論月のドームによって紫外線をはじめとする有害なものは全てはじかれており、その日差しは幾分柔らかなものである。しかし流石に直射日光を浴びて眠るには不快感の方が先に立つ筈だ。
さも当然、というような態度を見せる天馬に笑いかけて優しく労った。この馬は賢いだけでなく、どうしてなかなかプライドも高い。
「お前は凄いよ、流石僕の相棒だ。」
そうだろうそうだろう。自分は特別な存在だからね。
人間の言葉にすればそんなところか。
苦笑を堪えきれず、肩を震わせたところで澄んだ声が下方から聞こえた。
「ん…」
「あ、お姫様起こしちゃったね」
しまった、と思いつつもでもそろそろ頃合いだ、とも思う。
木の陰が移動する程眠っていたとしたら、彼女の護りをつとめている四守護たちは今頃大騒ぎしているだろう。捜索の手がこの場に及ぶのも時間の問題だ。
「お目覚めですか、プリンセス」
身を起こすのを手伝おうと片膝をついて手を差し伸べると、まだ霞がかったような、夢見心地だった瞳が驚いたように見開かれる。
―――――――青だ。
透き通るようなその瞳は混じり気のない、青。空の色。
「貴方は…誰?」
暫し見惚れていたようだ。一瞬の間を挟んでウラヌスは自らの名を名乗った。
不思議とこの少女には偽る気にはなれない。けれど、自分の置かれた状況を考えると全てを告げることはできなかった。
「一介の騎士、ウラヌスです。―――――以後お見知りおきを。」
そう口を吐いて出た言葉だが、先ほどクイーンから賜った任務が頭をかすめる。
以後は恐らくないだろう。そう思うと少し気が沈む心地がする。そしてそんな自分に気づいてはっとなった。
「ウラヌス、ね。私はクイーンの娘、セレニティと申します。」
発音を確かめるようにウラヌスの名を呟くと、王女はどこかたどたどしいが完璧な挨拶をしてみせた。
――――――ああ、紛れもなくプリンセスだ。
花が咲きこぼれるような笑顔を見せる王女は噂通り天真爛漫で、誰をも魅了してしまうことだろう。それこそが揺るぎようのない「プリンセス」の証でもある。
『プリンセスとは愛され守られるべき存在である。』
誰もが口にするその言葉。ウラヌスはそれまで内心で反発を覚えていた。見たこともない、主星の姫君というだけで何故愛しく思わねばならないのか。
無論ウラヌスも敬愛の念はある。クイーンやその娘であるプリンセスに対する敬愛は、幼い頃よりこの胸に抱いてきた。しかし敬愛と愛情は違う…!
口にすれば不敬ともとられかねないそんな煩悶は、雑多な年頃であることも手伝ってか日々少しづつ胸の内に蓄積されていった。
もしかしたら既に月の長寿の恩恵に飽いて居たのかもしれない。誰よりも風を、速さを好む自分である。緩やかに流れる時に嫌気がさしたのかもしれない。
―――――だが。
銀の少女を目前に、そんな煩悶は一瞬で霧散した。今となってはそんな些末事を抱いていたことさえ不思議である。
一目見ただけで分かる。彼女こそ、愛すべき主君だ。彼女こそ、剣を捧げる人だ。
プリンセスだから、ではない。彼女だからこそ、捧げるのだ。
王女には忠誠を、貴女には愛を―――。
長年の凝りが溶けて消えてしまったこの充足感。
全てを溶かしてしまう存在に出会えたことに、感謝を捧げます。
「私の剣を貴女に―――」
剣を抜いて王女の前に差し出し、頭を垂れる。
きょとんとした彼女は恐らく何が起こっているかも把握していないに違いない。
それでもいい。それでも良いのだ。
偶然でも必然でも構わない。君という存在に巡り会えたことに祈りを。
これから遠い場所ではあるけれど、君を守れることに誇りを。
心は何時も君のそばに在ることに誓いを。
君の全てに感謝を捧げます。
形式も何あったものでもないけれど。
もとよりそんな型に嵌められるような人間じゃない。
「プリンセス。今から僕は、君の騎士だ。」
そう告げると、それまで不思議そうに首を傾げていたプリンセスは嬉しそうに顔を輝かせた。
本来ならばこのような口の利き方が許される相手ではない。しかしそれを押してまでも実行したのは、王女という地位にではなく、その人に捧げたから、
そして先ほど礼を取った時、一瞬王女の瞳によぎった悲しみの色を捉えたからである。
王女はまだ幼い。一線を画しても向けられる想いに変わりはないことを知りつつも、寂しく感じてしまうのだろう。 そんな所さえウラヌスには好ましく映るのだが。案の定、王女の表情は一つの曇りもなく眩しいばかりだ。
「騎士?本当?」
恐らく物語の中だけに登場するその存在に憧れていたのだろう。
こちらまで弾む気持ちが伝わってくる。
「ああ、本当だよ」
喜ぶ顔が見たくて肯定する。
今なら分かる。全てはこの瞬間のため、僕は今日ここに来たのだ。
ああ、本当にこれで心起きなく任務につける。
心からそう思って、プリンセスに微笑みかけた。
「嬉しい!私ね、私ね、騎士様にずーっと会いたかったの!」
ほら。表情全体で無邪気に感情を表現する彼女。
本当にこの王女は透き通るように透明だ。
「ねえ、騎士様なら、私の一生のお願い聞いてくれる?」
少しはにかむように手招きするプリンセスに、顔を綻ばせる。
月の王族の一生ならば永遠にも等しい時間だな。
―――――だが、それも悪くない。
「プリンセスのお望みなら何なりと」
くすぐったいような甘い、耳に掛かる吐息と共に囁かれたその「お願い」に
プリンセスの初めての騎士は優しく微笑むと、恭しくその手に口づけた。
***
―――――それから再び王女に会うことは無かった。任務までの少ない日数を何とか都合つけて、プリンセスに接触しようと試みたが適わなかった。恐らく抜け出した事を重く見た四守護に堅くガードされたのだろう。
その後、主星が地球からの反乱軍に攻め込まれた事を知った。
遠い遠い孤独な地に居た僕は、狂おしい気持ちを抱えながらも任務を放棄することも適わず、ただ為す術なく月の王国の崩壊を見届けるしかなかった。
絶望をこの胸に抱えながらもこの悪夢のような世界に終止符を打つべく、最後の任務を遂行した。
死ぬことは怖くなかった。ただ一つ、君との約束を果たせなかったことが悔やまれて。
もう一度君と出会って、次こそは必ず果たす。そう魂の奥に刻み込んで。
―――――時は巡る。
はるかは空を仰いだ。空が高い。腕の中にはあの日の少女。
もしかしたら彼女は覚えていないかもしれない。
それは今は遠い、あの日の約束―――――。
「ねえ ずっと私を守ってくれる?」
「ああ、この剣に誓って、約束を」
FIN
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
長くなってしまいました(汗)ていうかシリアスモード・・!
近々オリジナルの方ででかいの書かねばならぬので、文章の練習も兼ねて書いたはるうさ小説(<思いっきり趣味走りすぎ 笑)
や、完結させるのに慣れとこうとおもって・・。(とかいいつつまだ小説3作目。←うち2作がセラムン笑)
相変わらず書いててくどいし文章堅いなあと思いつつ・・・。こうテンポ良く書かれる方々は素晴らしいですね〜。そして今回もまた長い。何だコレ。漫画も小説も表現方法は違えどやっぱり長くなることにはかわりはないのか・・って感じですね(爆)最初これを漫画にしようと思っていたなんてとてもとても・・!ヒィ!恐ろしい・・!
えーとこれは「はるうさだけどちょっとウラネプも入っちゃってるかもしれないウラセレ話」です。<何
あーでもどっちかといえばまもうさ←はるか な感じですね、これは。いつものことですがはるかさんは原作の「男でもあり女でもある」って設定に基づいてます〜。基本的にうさの前では男希望(笑)ああ原作で最初でてきた男はるかさん格好良かったのに…!!
因みに見た目、セレニティ13、14歳ぐらい(笑)ウラヌス15、16歳ぐらい(笑)別に少年少女が好きな訳じゃないんですが(笑)てかりんごあめさんの騎士ウラヌス設定引き継がせていただきました・・!だって騎士カッコイイよ騎士ツボなのよ!(笑)
あ、それから、別館のギリシャ神話系サイトで使おうかこっちで使おうか迷ってた「馬はポセイドンの贈り物」ネタ(笑)ロード・オブ・ザ・リングの映画でも使われていましたが、アラン・リーが描いた絵の中に、洪水が馬となって押し寄せてくるってシーンがあるんですが、それがもう本当に大好きで、大分前なんですが色々調べていくうちにそういう伝承を見つけたんですよ〜。で、やっぱりセラムンでも星の名を冠していることもあって、色々被るんでこっちで使用(笑)
単なる馬よりは「飛翔の戦士」にふさわしく空飛べたほうがいいかと思ってビジュアル的にも麗しい天馬に(笑)ホントはちびうさのペガサスと被っちゃうかなと思ったんですが、エリオスの方は「ユニコーン」でもあることだし、幻想種として扱うことに。因みにライダーは出てきません(笑)<FATEネタ(笑)
どうでもいいけど何で私つづくづくマイナーCPばかり好きなんでしょうか・・(爆)
星うさも大好きだけどはるうさも好きよ、って同士、いませんか〜〜〜〜・・・(弱気)あ、ついでにデマンドうさも(爆)
いや私うさがみんなに愛される設定が大好きなんだけどね(笑)うさ総受けv<総受けいうな
かなりマイナーな上、こんな堅い文章でも読んで下さった方いらっしゃいましたらありがとうございました〜(本当に)
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